
昭和末期〜平成の護衛艦隊を支える汎用護衛艦(DD)
護衛艦隊の基幹を支えた汎用護衛艦
※文頭写真:海上自衛隊
初代「あきづき型」(昭和35年〜平成5年就役)、「たかつき型」(昭和42年〜平成15年就役)、「やまぐも型」(昭和41年〜平成17年就役)を統合し、海上自衛隊護衛艦隊の基幹を成す汎用護衛艦として昭和54年〜昭和62年にかけて「はつゆき型」(昭和57年〜就役中)12隻が建造されました。
本艦「あさぎり型」はその「はつゆき型」を進化させた後継として開発され、昭和60年〜平成3年にかけて以下の8隻が建造されました。
「あさぎり」(DD-151)、「やまぎり」(DD-152)、「ゆうぎり」(DD-153)、「あまぎり」(DD-154)、「はまぎり」(DD-155)、「せとぎり」(DD-156)、「さわぎり」(DD-157)、「うみぎり」(DD-158)
海上自衛隊の護衛艦隊は、大きく機動運用部隊と地方配備部隊に分かれています。機動運用部隊は第1護衛隊群(横須賀)、第2護衛隊群(佐世保)、第3護衛隊群(舞鶴)、第4護衛隊群(呉)により構成され、それぞれの護衛隊群に護衛艦4隻からなる第1〜第8の護衛隊が2つずつ配備されています。
地方運用部隊は、第11護衛隊(横須賀)、第12護衛隊(呉)、第13護衛隊(佐世保)、第14護衛隊(舞鶴)、第15護衛隊(大湊)の5つがあり、それぞれ概ね3隻の護衛艦が配備されています。
外洋、遠洋で任務にあたる機動運用部隊には比較的新しい護衛艦が配備され、入れ代わるようにそれまで機動運用部隊に所属していた護衛艦が地方配備部隊に移動します。
「あさぎり型」も長らく機動運用部隊の基幹艦として活躍し、平成24年(2012年)から就役が始まった国産純度の高い「あきづき型」護衛艦と入れ替り、多くが地方配備部隊に転属となっています。
しかし、10隻以上建造される予定であった「あきづき型」の建造が4隻にとどまり、新鋭の「平成25年度計画艦型護衛艦(25DD型護衛艦)」の建造に移行することとなり、そこに時間差が発生したため、平成28年現在も「あまぎり」(DD-154)が第2護衛隊群第2護衛隊に、「せとぎり」(DD-156)が第3護衛隊群第7護衛隊に所属しています。

はつゆき型と比較して〜ネットワーク能力の強化
「はつゆき型」は昭和52年度(1977年度)計画において、「あさぎり型」は6年後の昭和58年度(1983年度)計画において1番艦の建造が始まっています。
まずは外観から。基準排水量は「はつゆき型」2,950/3,050トン、「あさぎり型」は3,500/3,550トンと約500トン重くなっています。全長も同様に130mから137m、全幅は13.6mから14.6mへと大型化しています。
船体を大型化することにより、「はつゆき型」の課題であった耐久性、電子設備の強化が図られています。「はつゆき型」では予算などの関係から備えられていなかった、米軍を中心にNATO軍や自衛隊など西側諸国が運用するリンク11という戦術データ・リンクが「あさぎり型」には装備されます。
現代の戦闘はネットワーク戦の要素が大変強くなっています。戦艦や戦闘機などの大型兵器の場合は昔の戦闘のように目視で相手を確認し射撃・砲撃を行うことは少なく、視界外戦闘が主流です。
例えば、護衛艦隊に接近してくる敵戦闘機を300km先に確認したとします。この情報は自軍及び同盟軍が共有、最も近くにいるもしくは機動性のある、恐らく戦闘機が敵戦闘機の情報を受け取り接近、射程距離100km超の空対空ミサイルが射程内に入った瞬間に発射、即座に離脱します。
戦闘機はネットワークから情報を受け取っているため、敵に探知されやすくなる自らのレーダーを作動させず、また、空自が配備予定のF-35Aであれば、そのステルス性能もあり敵に探知されることもないでしょうから、敵戦闘機は自軍戦闘機の存在に気がつくこともなく、撃墜されます。
このようにして全くの視界外において戦闘が終了する現代のネットワーク戦においては、レーダー、情報機器などの装備が大変重要になってきますから、「はつゆき型」の後継として建造された「あさぎり型」において戦術データ・リンクが強化されたことは大きな進歩といえます。

兵装
兵装は「はつゆき型」とほぼ同様に以下の様な装備となっています。各々の解説は「はつゆき型」記事をご覧ください。
「高性能20ミリ機関砲(2基)」、「62口径76ミリ速射砲(1基)」、「短SAM装置一式」、「SSM装置一式」、「アスロック装置一式」、「3連装短魚雷発射管(2基)」、哨戒ヘリコプター1機
余談ですが本当はリンクなどせず、内容が同じであってもページ毎に原稿があればよいと思うのですが、それをするとSEO的に良くないそうです。お手数かけますが、よろしくお願いします。
ヘリコプター
護衛艦隊にとって最も重要な任務である対潜能力の要となるヘリコプターも1機搭載できます。ちょうどHSS-2Bの後継として防衛省技術研究本部と三菱重工により開発され、昭和62年(1987年)に初飛行した当時最新鋭のSH-60Jの搭載を前提とした設計がなされました。
SH-60Jは日米貿易摩擦の影響を受け米国が電子部品等において輸出を拒んだため、一部を除いて防衛庁技術研究本部において研究開発されました。
SH-60Jは主任務として対潜哨戒、水平線索敵。他に救難や輸送など多用途に活躍します。広範囲に水中を哨戒するソノブイという装置と、位置を正確に捉えるディッピングソナーの双方を運用し、敵潜水艦を追い詰めます。夜間のオペレーションも可能であり、SH-60Jが得た情報は「あさぎり型」に搭載されたQRQ-1というヘリコプターデータリンク装置により、共有されます。
水平線索敵というのは、地球の丸みを利用して接近する(シースキミング)敵ミサイルや戦闘機を高所から索敵することをいいます。SH-60Jなどのヘリコプターが持つこれらの能力は日米艦隊にとって唯一の大きな脅威といってもいい潜水艦の排除に大変有効です。
種別 | 汎用護衛艦 |
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運用者 | 海上自衛隊 |
級 | あさぎり型 |
製造者 | 石川島播磨重工、三井造船玉野工場、住友重機械浦賀工場、日立造船舞鶴工場、三菱重工長崎造船所 |
母港 | - |
排水量 | 3,500t、3,550t |
全長 | 137m |
全幅 | 14.6m |
吃水 | 4.4m |
速力 | 30ノット |
乗員 | 220名 |
発動機 | COGAG方式/ロールス・ロイス スペイ(川崎・13,500ps)×4 |
主な兵装 | 高性能20ミリ機関砲x2 62口径76ミリ速射砲x1 短SAM装置一式 SSM装置一式 アスロック装置一式 3連装短魚雷発射管x2 |
搭載機 | 対潜・哨戒ヘリコプター(SH-60J)1機 |
進水 | 1986年-1989年 |
就役 | 1988年-1991年 |
退役 | - |