
F-4ファントムⅡの空軍型
アメリカ空・海軍双方に大量採用された初めての例
※文頭写真:アメリカ海軍のF-4ファントムⅡはその優秀さ故に、メンツを超えてアメリカ空軍にも採用され、F-110スペクターとなりました。PHOTO USAF
マクドネルF-110スペクターは、アメリカのマクドネル社が開発したアメリカ空軍の戦闘機です。
F-110はF-4ファントムⅡの別名。F-4ファントムⅡは船の上(航空母艦)という制約からジェット戦闘機開発に苦しんできたアメリカ海軍が、苦難の末に手にした傑作艦上戦闘機です。初飛行は1958年(昭和33年)5月27日、1960年(昭和35年)から就役し1996年(平成8年)まで活躍しています。
アメリカの空軍と海軍は、ご多分に漏れずメンツをかけて何かにつけて競い合ってきました。その空軍が、花形の戦闘機採用において海軍の開発した艦上戦闘機を大量に採用するなどということは、前代未聞でした。それほどにF-4ファントムⅡは高性能であったわけですが、理由はそれだけではありません。ロバート・マクナマラという国防長官の存在が大きな要因を占めています。
ロバート・マクナマラはハーバード出身でアメリカ陸軍航空軍の統計管理局で活躍し、戦後はフォード一族以外では初めてフォードの社長となり、1960年にジョン・F・ケネディが大統領選に勝利すると国防長官として白羽の矢が立ちます。
システム分析や統計学を駆使するマクナマラは、それまで空軍・海軍それぞれが独自に行っていた戦闘機開発を統合を企図し、その手始めとして開発中であったハイコストのF-106デルタダートの代わりに、海軍が開発していたF-4ファントムⅡを採用させようとします。
1961年(昭和36年)、空軍が開発していたF-106とF-4の飛行試験が行われます。速度、上昇限度、航続距離、レーダー性能、爆撃能力、整備性など多くの面でF-4はF-106を上回りますが、最新鋭のハイテク防空システム、半自動式防空管制組織(SAGE=Semi-Automatic Ground Environment)の装置が搭載できないということで、F-106の生産は続行されます。
SAGEはソ連の爆撃機(原爆搭載)を発見、迎撃するためのコンピュータシステムです。F-106はSAGEとデータリンクしており、SAGEからの命令や敵機の情報を直接、自動操縦装置が受け取ることができます。
しかし、アメリカ空軍がF-106に続く次期戦闘機として開発していたF-111アードバーグの開発が遅れており、その穴埋めとしてF-4が採用されることとなり、名称を空軍名F-110スペクターに変更しました。その後1962年(昭和37年)にアメリカ三軍の呼称統一が施行され、F-110スペクターから再びF-4CファントムⅡに変更されました。
空軍型F-4シリーズの決定版ともいえるF-4E型は1967年(昭和42年)6月30日に初飛行、各国へと供与され1,389機が生産されました。マクドネル社は、艦載機として開発したF-4ファントムⅡが空軍機として採用されたことで、より生産数を伸ばし西側戦闘機としては史上最多の5,000機以上が生産されました。
F-4Eは1966年(昭和41年)、日本の第2次F-X(主力戦闘機)選定によりF-86Fの後継として選ばれました。日本の航空自衛隊向けF-4EはF-4EJとして154機が調達され、そのうちのほとんどがライセンス生産されました。そして1980年(昭和55年)にF-15Jが採用されるまで日本防空の主軸を担いました。F-15Jに主役の座を譲ってからも現役にとどまり、平成28年(2016年)のいまも活躍し続けています。
運用者 | アメリカ空軍 McDonnell F-4 PhantomⅡの項参照 |
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主要なバリエーション | F-4C 海軍のF-4Bを空軍用に改修。空軍F-4最初の量産機 EF-4C 敵防空網制圧機(ワイルド・ヴィーゼル機) RF-4C 写真偵察機 F-4D C型の改良型 EF-4D D型を改装した敵防空網制圧機(ワイルド・ヴィーゼル機) F-4E 空軍型F-4の決定版。1,389機製造 RF-4E 偵察機 F-4G 敵防空網制圧機(ワイルド・ヴィーゼル機) |
生産数 | 5,195 |
スペック型式 | F-4E |
全 幅 | 11.71m |
全 長 | 19.20m |
全 高 | 5.02m |
翼面積 | 49.2㎡ |
自 重 | 13,757kg |
総重量/最大離陸重量 | 27,970kg |
発動機 | J79-GE-17A(5,356kg/AB 8,119kg)×2 |
最大速度 | 2,370km/h |
実用上昇限度 | 18,975m |
戦闘行動半径 | 1,200km |
航続距離 | 2,600km |
乗 員 | 2名 |
初飛行 | 1958年5月27日/1963年5月(F-110) |
就 役 | 1963年11月 |
退 役 | 1996年4月 |
兵 装 | 20mm機関砲×1 AIM-9 Sidewinder 各種ミサイル |