
世界最強のステルス戦闘機
圧倒的な戦闘力から抑止力をも発揮
ロッキード・マーチンF-22ラプター(1990-)はアメリカのロッキード・マーチン社が開発したアメリカ空軍のステルス戦闘機です。2005年(平成17年)から運用が開始され、現代最強の戦闘機として突出した能力を有しています。
北朝鮮のきな臭さが危険な域に達した時、アメリカは原子力空母を派遣しました。洋上を移動する巨大な軍事力であるアメリカ海軍原子力空母は、そこにいるというだけで強烈な抑止力を発揮します。
F-22は戦闘機でありながら、規模は違えど空母と同じ種類の抑止力を発揮します。このような抑止力を持つ戦闘機はこれまで存在したことがありません。
F-22については2つのキャッチフレーズが与えられています。一つは「Air Dominance Fighter」(航空支配戦闘機)、もう一つは「First look,First shoot,First kill」(先に発見、先制攻撃、先に撃墜)です。
1970年代に登場し、現在まで一度も撃墜されたことのないアメリカのF-15には「Air Superiority Fihter」(航空優勢戦闘機)というキャッチフレーズが与えられていました。F-22ではさらに進化し、航空支配という言葉が使われています。
「First look,First shoot,First kill」(先に発見、先制攻撃、先に撃墜)はF-22の性能を端的に表わしています。
これは、戦闘機は誕生した時(1915年頃)から変わらない鉄則です。第1次世界大戦や第2次世界大戦など有視界で空中戦を行っていた時代でも、レーダーやネットワークを駆使した現代のハイテク戦闘でも基本は同じです。
敵より先に発見し、先に攻撃し、速やかにその場を立ち去る。要するに、不意打ちして即離脱するというのが空中戦の勝者となる道であり、正面から正々堂々と戦うなどというのは最後の手段です。
F-22の戦い方はこうです。
ステルスにより敵に発見されることなく、優れた自身のレーダーと僚機やイージス艦など味方勢力の情報が収集されたリンク21と呼ばれるネットワークの情報を駆使して、先に敵機を発見し、ミサイルの射程圏内まで接近します。
敵機のデータを入力し、70km以上の長射程を持ち、撃ちっぱなし(fire and forget)可能な空対空ミサイル(AIM-120 AMRAAM)を発射し、即座に離脱します。超音速巡航(スーパークルーズ)能力を持つF-22に追いつくことは困難です。というよりも、敵機は何もわからずいきなり撃墜されることになるでしょう。
もし、自分より敵機に近いところに僚機がいれば、目標のデータを送信してミサイルを発射してもらう、ということも可能です。
F-22の特長
① ステルス
② スーパークルーズ
③ アビオニクス(電子機器)とネットワーク
④ 高機動性/推力偏向装置
① ステルス
ステルスというのは、隠れるということです。超音速という高速で移動し、肉眼でみえる距離(有視界)よりもはるか遠くからミサイルを発射しあう現代の戦闘においては、レーダーなどのセンサ類に感知されにくくするということは、とてつもなく重要な技術です。F-22はほとんど映らないといわれます。
ステルス性を高めるには概ね以下のような項目に注意が必要です。「目視発見の回避」、「レーダー反射断面積(RCS=Radar Cross Section)の低減」、「飛行音の低減」、「自身が発する電波を探知されない」、「赤外線探知の回避」、F-22は、これらすべてにおいて世界最高の技術が投入されており、レーダー反射断面積(RCS)値に関しては0.001〜0.01平米といわれています。RCS値は通常の平米表記とは違うため一概に表現できませんが、ほとんど映らないと考えてよいでしょう。


② スーパークルーズ
戦闘機が誕生した時から、スピードは生命線です。迅速に目標に到達することができ、戦闘時もアドバンテージがあり、敵の大軍が接近していようと、スピードにおいて勝っていれば逃げられます。ミサイルを発射する時でも自らの速度をミサイルに与えることができます。
戦闘機の最高速度を表すとき、F-22以前のジェット戦闘機の多くはアフターバーナーという技術を使用しています。ジェットエンジンの排気に再度燃料を吹き付けて一時的に高出力を得るものです。
急加速を可能にするアフターバーナーですが、全開で使用すると15分程度で燃料を空にしてしまいますから、緊急措置でもあります。
スーパークルーズ(超音速巡航)というのは、このアフターバーナーを使わず、通常のエンジン使用のみで超音速を実現することです。F-22はプラット&ホイットニー社のF119-PW-100を2基搭載し、マッハ1.58という超音速巡航を可能にしています。
③ アビオニクス(電子機器)とネットワーク
F-22にはAN/APG-77レーダー、CNIシステム(データ・リンク)、電子戦システムなど多様なアビオニクス(電子機器)を搭載しています。プログラムも複雑化しており、F-15の20万行に比べてF-22は220万行にも及んでいるといわれます。最近の戦闘機開発はソフト面の比重が増加しており、プログラム開発の遅れによる開発計画の遅延がしばしば報告されます。
AN/APG-77レーダーはアメリカのノースロップ・グラマン社とレイセオン社が開発して高性能レーダーです。アンテナが可動することで探知範囲を飛躍的に向上させた、アクティブ電子走査アレイ(AESA=Active Electronically Scanned Array)方式のレーダーとなっており、走査角度は垂直・水平共に120度、走査距離は約250kmであり、後発のF-35に搭載されているAN/APG-81レーダーを除けば最高性能のレーダーです。
3重のデジタル飛行制御システム(フライ・バイ・ワイヤ)は、パイロットが無理な操作をしても自動的に体勢を維持し、パイロットの失神などの際には水平飛行を維持するといわれています。
BAEシステムズ社の電子戦システムAN/ALR-94は機体全体に30個以上のアンテナを持つ全周囲のミサイル探知能力、460km先からのレーダー電波を探知する能力をF-22に与えています。また、同社のフレア(赤外線誘導ミサイル用デコイ)AN/ALE-52を搭載しています。
F-22はアメリカ軍を中心にNATO諸国及び同盟国が統合運用するリンク16という統合戦術伝達システムから情報を受信することができます。味方の早期警戒管制機(AWACS)、イージス艦、地上のレーダー、地上小隊の端末、司令部などの情報が集約されています。
リンク16上に敵機の情報があれば、ステルス性を損失する自身のレーダー使用を行うことなく、目標に対してミサイル攻撃を行うことができます。
④ 高機動性/推力偏向装置
F-22のエンジンは高出力なだけでなく、推力偏向ノズルを備え、±20度の偏向能力を有しています。敵機がF-22に気がつく前に遠方から撃墜し、即座にスーパークルーズ能力を駆使してその場を離脱するという戦い方が得意なF-22ですが、従来のような遷音速(マッハ0.9〜1.1)における格闘戦でもF-15を上回る機動性を持っています。
高度や上昇力、速度、機動性、戦闘機の運動性能におけるあらゆる分野でF-22は現在最高の能力を有しているといえます。
運用者 | アメリカ空軍 |
---|---|
主要なバリエーション | YF-22 試作機。2機製造 F-22 量産型。187機製造 F-22B 訓練などに用いる複座型。開発中止 FB-22 戦闘爆撃機型。計画のみ F-22N 米海軍向け艦載機。計画のみ |
生産数 | 195 |
スペック型式 | - |
全 幅 | 13.56m |
全 長 | 18.92m |
全 高 | 5.08m |
翼面積 | 78.04㎡ |
自 重 | 19,700kg |
総重量/最大離陸重量 | 38,000kg |
発動機 | F119-PW-100(AB 15,872kg)×2 |
最大速度 | 2,575km(巡航速度1,825km) |
実用上昇限度 | 15,240m |
戦闘行動半径 | 1,300km |
航続距離 | 2,960km |
乗 員 | 1名 |
初飛行 | 1990年9月29日(YF-22) |
就 役 | 2003年9月 |
退 役 | - |
兵 装 |